新幹線の座席の折り畳みテーブルの裏に「キーボードの操作音など、まわりのお客さまのご迷惑とならないようにご配慮ください」と書いてあるのだが、人さまのキーボードの音というのは時に実に不快である。

職場の、私の席に対面して座るオジイサマのタイピングが恐ろしいほどにうるさい。キーボードが割れるのではないかというくらいのパワーでブッ叩く。世に言う「カタカタカタカタ…、ッタァーーン!」を強く遅くした感じで「バチン、バチン、バチン、………、ズドン!!」だ。強い。いや、強すぎる。そして遅い。信じられないくらい遅い。これが全くもう、断然耳障りだ。
そんなわけで、オジイサマがタイピングを始めるともはや私はイライラして仕事どころではなくなる。仕方なく耳栓をするか、それでも耐えられなければパソコンを持って離れたテーブルに移って耳栓をするしかない。どちらにせよ耳栓は欠かせない。

しかし不思議なのは、私がこれ見よがしに耳栓を装着したり、「ぐあぁ…」と言いながらパソコンを持って席を立つのを、この1年で数百回繰り返しているのに、オジイサマが全く意に介さないことである。言わなくても察してくれ、は一切通用しない、言わなきゃ何一つ伝わるわけないだろ、の世界。
もう一つ不思議なのは、同じ島(テーブル6個)内の他の社員さんたちがオジイサマのタイピングに対して特に何の反応も示さないことだ。もしかして私が神経質すぎるのだろうか。それとも他の社員も皆オジイサマ方なので、耳の聞こえが悪いのだろうか。っていうか他の人たち仕事していないし、多少うるさくても支障ないのかな。というかイチ平社員の私に何でもかんでも押し付けないでよね。参加資格が少佐以上って書いてある会議に二等兵の私を行かせないでよね。すぐ戦死するんだから。プンプン。
ということでふとひらめいた。パソコンのキーボードに感圧センサーを付けて、圧力に応じて無音→「うっ」→「痛!」→「痛い痛い!!」→「どんだけブッ叩くんじゃボケー!!」みたいに音が出るようにすれば面白いのではないだろうか。そして一定回数「痛!」以上が鳴ると、その後15分間キーボード操作が受け付けられなくなるとかだったら、私の仕事は随分とはかどるだろうな。
と、ここまで書いておいて何だが、オジイサマの騒音攻撃はなにもタイピングだけではない。歯に挟まったものを取ろうとして口をチューチュー鳴らす、「はあぁぁ~!!」という大きなため息、「チッ、あぁクソ、ちきしょう!」の悪態の独り言、の3つも適宜プラスされる(頻度多し)。もはやカオスだ。この目の前から発生する混沌を耐え忍び、いずれは気にも留めなくなるほどに心を広く大きくしたい。座禅を始めて1年くらい経つけれど、しかしそうなれるまであと何年かかるのだろう。まったく、先は長いぞ。
なんて書きながら結局、耐えきれず今日直接本人に抗議したのでした(笑)。

(2021.11.3)
