ここのところ気になっている敬語の言い回しが二種類ある。数年後にこの文章を読んだときになお違和感をもてると良いのだが、…もしかしたら自分にもすっかり定着しているかもしれない。
その1:「ご(お)〇〇させていただきます」
「ご紹介させていただきます」という言葉を良く聞くが、この言葉を初めて認識したのはくりぃむしちゅーの上田晋也氏がしゃべくり007で使っているのを聞いたとき。多分2010年前後。
「ご紹介させていただきます」は謙譲語の二重敬語で誤用だ。二重敬語とは、一つの語に対して同じ種類の敬語を二重に使ったもののこと。謙譲語の形式の一つ「ご + 動作を表す漢語名詞(紹介) + する」と「する」の謙譲語の「させていただく」が合体している。正しくは「ご紹介します」か「紹介させていただきます」だ。また「させていただく」は「相手の許可を受けて行う場合」と「恩恵を受けているという事実や気持ちがある場合」の二点が満たされているときに使うのがふさわしいということなので、社運のかかった大商談の場で先方の責任者に向かって、とかでなければ「紹介いたします」の方がより無難だろう。(詳しくは文化庁文化審議会が2007年2月2日に出した答申「敬語の指針」P40、41参照)
「ご〇〇させていただきます」を耳にする機会が増え続けている昨今、「ご入籍させていただきましたことをご報告させていただきます」から「すぐにお持ちさせていただきましょうか、それとも少しお待ちさせていただきましょうか。」、果ては「ご拝見させていただきましてもよろしかったでしたでしょうか」まで、奇妙奇天烈な敬語の増殖が止まらない。でもヘンテコ敬語が妙に面白くて、この人はどんな敬語の使い手なのだろう、と新しく会う相手に期待してしまう自分もいたりして。しかしこのまま敬語の乱れが進んでいくとそのうち尊敬語と謙譲語との差も滅茶苦茶になっていって、「お召し上がりさせていただきます」とか「ありがたくご覧にならさせていただきます」とか言い出す輩まで現れるかもしれないなぁ…。あ、ふと思い出したが、タレントの岡田結実さんがある番組で試食の一口目のタイミングを計るゲストに向かって「では、いただいちゃってください!」と言っていたことがあったっけ(でも「ちゃって」が入ると違和感が薄れるから不思議)。
その2:「〇〇さんが××していただく」
これは私の周りでは2013年頃からはやり出した。「私が困っていた時に、佐藤さんが助けていただいて本当に助かりました」とか。初めて聞いた時には頭が混乱したが、この場合助けられたのは佐藤さんかと思いきや、困っていた私の方である。本来なら「佐藤さんに助けていただいて」か「佐藤さんが助けてくださって」なのだが「に」と「が」、「いただいて」と「くださって」がゴチャゴチャになっている。
これもなぜか廃れることなく、いやむしろはやっていて、最近だと企業のパンフレットやホームぺージ上でも「お客さまが快適にご利用いただけるよう、私たちは…」とか「お客さまが少しでも安心してご滞在いただくことを願い、…」などと書いてあるのをよく見るようになってしまった。

ということで気になっている敬語の誤用について書いてみたが、言葉は人々が日々の暮らしの中で使うものであり、人々の暮らしが時代とともに変化していくのと同様に、言葉も時代とともに少しずつ変化していく。はやった後で廃れる言葉もあれば、はやりで終わらずに長い時間のうちに普遍化する言葉もある。
例えば「ご紹介いたします」は私は全く違和感なく使っていたが、本当は「ご紹介させていただきます」と同じ構造の二重敬語で誤用であり、年配者なら違和感をもつ可能性があるという。他には「お召し上がりください」、「拝読いたしました」、「お願いできますでしょうか」なども誤用だというが、これらの言葉は世間一般で使用される頻度が多く、問題ない敬語として定着しているとのこと。そして残念ながら私はこれらに違和感を覚えることができなかった。ここから分かることは、厳密には誤用であるのにそれと気づかずに使用している言葉がきっと沢山ある、ということだ。
「ご○○させていただきます」「○○さんが××していただいて」の二つに目くじらを立てている私自身、より厳密に言葉を使っている方々に目くじらを立てられる存在なのだということに気づいたところで、この文章のほう、お閉じさせていただきます。
(2021.2.24)
敬語の本を買ってきちんと勉強しようかな。